単車
1.学び舎へ
去年の秋口、人生の目標の一つであった「大型自動二輪免許」の取得を目指し、自動車教習所に通い始めました。
何かを学ぶために指定の場所に通うなんて大学以来であり、入校式は入学式のように、自動車学校長は小学校長のように感じました。
こうして、清々しい気持ちで私のライダーへの道は始まりました。
普通自動車免許を持っているので、学科は免除、それでも、技能だけで31時間分通う必要があり、途方もないなーとか思っていました。
ドッキドキの1年生って感じ。
2.気づいちゃった教官
3時間目だったでしょうか。
教習中に一人の教官が、バイクに跨る私に近寄って来て、「鎌田さん、アナウンサーさんだよね!」と声をかけてくれました。
安全のため上から下まで完全防備だったのによく気づいてくださったと、ウキウキしちゃいました。
その感じでニヤニヤしながら出発したらしっかりエンスト。
以後その時間はエンストとの戦いになりました。
エンスト沼にハマってしまったんですね。
多分一生分のエンストはしたと思います。
ただエンストよりやばかったのが、「鎌田さん、アナウンサーさんだよね!」のくだりです。
これがボディーブローのように、なんと卒検まで響きます。
3.鬼の半クラ
私、普通自動車免許をATで取ったせいで、MT車に必須の「クラッチ」の意味がよくわかりませんでした。
ただ、今回挑戦した免許は、「大型自動二輪免許(限定解除)」。
当然、相応の技術も必要で、クラッチ操作も完璧にしなくてはなりません。
そもそもバイクのクラッチってどこに付いているのかというと、左ハンドルなんですね。
自転車で言うと、左ハンドルのブレーキの部分に当たるので、初めは「おいブレーキじゃないんかい」と、ちょっと混乱します。
このクラッチを握ることを「クラッチを切る」と表現しますが、バイク出発時にクラッチを切った状態(握った状態)からいきなりクラッチを繋げる(握った手を離す)とエンストします。
(第2章のエンスト沼はそのせい。)
そのため、切った状態からは徐々に繋いでいく半クラッチ(以降「半クラ」)が必要になるのですが、この感覚を掴むのにまた一苦労。
半クラに悩んだ私は、Google先生に問い続けました。
「半クラ コツ」「半クラ 上達」「半クラ ムズい」「半クラ 悩み」など、とにかく「半クラ」のことを徹底的に調べたんです。
すると、YouTubeで大変わかりやすい方を発見しました。
「二宮祥平ホワイトベース」というチャンネルの方が、「困ったら半クラ!鬼の半クラ!」と教えてくれたのです。
思えば、バイク乗車中に焦ると、瞬間的にクラッチを離してしまう自分がいました。
この自分とおさらばしないと、エンスト沼からも脱出できないと思い、上達のコツを「半クラ」に見出したのです。
するとどうでしょう。
それまでの自分が嘘みたいに、かなり快適に運転できるようになったのです。
「鬼の半クラ」恐るべし。
気づけば、教習所で教わったことをYouTubeを視聴し復習するというのがルーティーンになっていて、頭が整理されたからか運転への恐怖が薄れました。
4.プレッシャー卒検
「鬼の半クラ」を覚えてからは、授業が信じられないくらいスムーズに進み、あっという間に卒検にたどり着きました。
赤で始まった教習者用のゼッケンは、オレンジ、青を経て、緑という、数々の技能教習をくぐり抜けてきた最上級生(猛者)のみが許された憧れの色に変わっていました。
緑のゼッケンというのは、小学1年生にとっての小学6年生のようなもので、他の3色とは放つオーラが明らかに違いました。
そんな憧れの緑ゼッケンにも別れを告げ、いよいよ「検定中ゼッケン」を身につける時がやってきました。
白地に黒で「検定中」とだけ書かれた一枚は、緊張感を助長させます。
教官から卒検の概要を説明され、生徒たちに緊張感漂う中、ある一人の教官が私の方に駆け寄ってきて、「頑張れアナウンサー、肝は一本橋だぞ」と一言。
立て続けにもうひとりの教官が「アナウンサー、いけいけぇ〜!」とか言うではありませんか。
「気楽にな!まあ落ちたら落ちたでラジオで話せるか!はははは!」こんな教官も現れたのです。
やばい、身バレが過ぎている。
「なんで?自分から言ったことは一度もないはず…あ、アレだ…。」
思い出したのは、第2章で登場したあの教官。
「アナウンサーさんだよね!」のあの人!!そっか、あそこから広がったんだ。
これは非常にまずい。
だって落ちたら、今後俺がテレビに出るたびに、ラジオに登場するたびに「卒検に落ちたアナウンサー」になっちゃうから。
変な烙印ほど面倒なものはこの世にありません。
これまでやってきたことを頭の中で復習し、イメージトレーニングもやれるだけやりました。
どうやら使用するのは1コースらしい、ラッキーでした。
得意なコースです。
多少は神様も私の味方をしてくれたかなと思った矢先、一緒に卒検を受ける方が、「アナウンサーさんですよね、テレビでたまに見ていますよ」と言ったのです。
誤算も誤算。
日常で声をかけられることなどほとんどないのに、なぜ自動車教習所という極めて小さいコミュニティーでこんなに声がかかってしまったんだろう。ますます落ちることができなくなりました。
行くしかないと心に決め、「ならし走行」と呼ばれるウォーミングアップを一周し、いよいよ次からが試験本番です。
まずはコースを一周、法定速度できちんと走り、次いで急制動。
少し走らせて難所「一本橋」の登場。
幅30cm、高さ5cm、長さは15m。
大型自動二輪の場合は、こいつを10秒以上かけて渡らなくてはならないのです。
(低速で安定した運転が出来るかどうかを見られる。)
ただ、9秒だったからと言って不合格になるわけではなく、持ち点から減点されます。
問題は落下したときで、なんと試験終了、すなわち不合格となってしまいます。
最も避けなくてはならないやつです。
私は考えました。
「他でミスなく走行すれば、一本橋を9秒で渡ったとしても試験には落ちないだろう」と。
低速走行はバランスをとるのが難しいので、できるだけ早く渡ってしまいたいというのが本音でした。
つまり、多少減点されても落下よりは遥かにマシという結論にたどりついたのです。
この作戦がハマり、おそらく9秒ほどで渡りきってしまいましたが、危なげなく一本橋をクリアしました。
あとはスラロームやクランク、坂道発進、踏切など、大げさに丁寧にこなすことで、気持ちのゆとりを作りながら試験を進めていきました。
結果は合格。
肩の荷がすっと降りた気がしました。
同時に、「ライダーになった」という実感が湧いてきて、久しぶりにかなり心地よかったです。
「これが達成感かぁ」。
5.バイク屋
忙しい皆さん、このブロックだけでも読もうと思ってくださりありがとうございます。
別に時間を割いてまで読む文章でもないので、読むのをやめるなら今ですよ。
これは冗談ではなく、結構マジです。
時間は有限ですし、貸し借りができませんから、今読み進めているこの時間を別の作業にあてたらもっと有意義な可能性だってあるわけです。
機会費用の損失は大きいと思いますが、それでも良いという方、ようこそ。
晴れて大型自動二輪免許を取得した私の次なる目標は、バイクを所有することです。
会社の先輩からバイクの雑誌を大量にいただき、これに付箋を貼りながら目当てのバイクを探す日々が始まりました。
そして出会ったのが、KAWASAKIのMEGURO K3というネイキッドのバイクです。
渋いでしょ。
色々あってまだ購入に踏み切れていないのですが、とても欲しい一台です。
ということで、跨った写真ですどうぞ。